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No Side History
第9話:聴牌
2011年9月21日。
朝から台風15号上陸のニュースで持ちきりだったその日は2011年ラグビーワールドカップ予選リーグ第三戦の「日本代表vsトンガ代表」戦当日。
当時、カーワンJAPANは日本代表2チーム制をひき、休養万全のメンバーをこのトンガ戦へ充て、マストウィンで臨みました。
もちろん店内は超満席。
20年ぶりのW杯勝利を見届けようと40席の店内に100人近くものラグビーファンが集い、キックオフからNZはファンガレイへみんなで声援を送っていたのですが…
突然、「ブツッ!」という音と共にテレビのスクリーンが真っ黒に。
スカパーのデッキを確認するも何も異常なく、再起動すると一瞬映るもまた消えて...
急いでスカパーカスタマーセンターへ電話して緊急事態の旨と原因、解決策を聞くと「恐らく台風の強い雨風で衛星の電波が不安定になっているのだと思います。
解決するには屋根の上にあるアンテナを動かして、一番電波が届く方向に調整するしかないかもしれませんが、 この暴風雨の中、今アンテナをいじるのは危険なので映像が映るまではしばらく我慢頂くしかないかもれしません。」とのこと。
それまで試合に夢中になり、全く気づかなかったのですが、ふと窓を見ると、外は風速20mを超える荒れ狂うような暴風雨。
スタッフ全員で対応策を思案していると...
どこからともなく誰からともなく店内から
「雨の中、せっかく来たのに試合見れないとかあり得ない。早く試合放映してよー!!」
「このまま試合が映らなかったらどうするんですか?」
とクレームや怒声が...。万事休す。絶対絶命の大ピンチ。
どうするべきか、短い時間の中で本当に考えました。
「この暴風雨の中、屋根に登るのは危ない。 高所恐怖症、しかもアンテナなんて触ったことないから行っても分からない。
まだ前半始まったばかりだし、皆さまへお代をお返しして他のお店へ行くことを勧めるしかないか…
いや、だけど、トライせずに諦めるのはラグビーマインドじゃない。
とりあえずビル6Fから屋上に登ってアンテナをいじってみるか!!!」
そう腹を括り、決死の覚悟で屋上へ登るとよりによってアンテナがあるのは屋上の一番端っこの角。
暴風雨で立ってるのがやっとの状態でアンテナのある場所まで行くのはトビでもない自分にはほとんど不可能に近い。
難しいか...
ビショビショの身体で店内へ戻り、スタッフへ伝えた上でフロアの皆様へ状況の打開が難しいことをお伝えしようとした、まさにその瞬間!!!
突然、店内中央から 「前半16分。トンガノックオンで日本代表ボールスクラム!」
「スクラムの後、日本代表12番がラインブレイク。敵陣22mへゲイン!」と大きな声が!!
見れば、知る人ぞ知る世界一短い親指の持ち主と評判の常連さんが携帯でTwitterを見ながら大きな声で試合経過を叫んでくれたのでありました。
「映像が戻るまでは私が試合経過を皆様へお伝えしますのでご心配なく!」
「おーっ!!!パチパチパチ!」
機転を利かせてお店を救ったその方へ店内中から大きな拍手と歓声が沸くと同時に不穏だった店内の雰囲気も一気に快復。
汗とも涙とも分からない滴が目から溢れ出てきました...
その後、その機転が天に届いたのか雨風も少しずつ落ち着き始め、後半からは何とか映像も復活、ラグビーファンの皆さまもお店も九死に一生を得たのでありました。
今でも思い出すだけで冷や汗が出るぐらい、本当にテンパり、肝が縮んだ一生忘れられない出来事。
お店の窮地を救ってくれたその常連さんには今でも感謝の極みしかありません。
あの時は本当に有り難うございます。
あっ!余談ですが、映像が復活した後の試合中、その常連の方と目があった時に「有り難うございます」という意味を込めて親指を立てて「サムズアップ!」したらその方も満面の笑みで自慢の親指を返してくれたのですが、 やはりその時も短すぎて親指が見えず、原監督のグータッチの縦シングル版にしか見えなかったのはここだけの話です。
親指MAXドサムさん、みんな待ってるよ。いつでも帰って来てね。
(明日へ続きます)
★from 容子
「そんなに人が来ていたんだ…
マスターの記事を読んでなんだか他人事のような感覚。
あの頃は本当に無我夢中で、ただ目の前の事をこなすのに精一杯。
テレビが映らなくなった時は、どうしようどうしようとアワワするばかりだったのは覚えています…