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No Side History
第12話:秋草や兵どもが夢の跡
2011年ラグビーワールドカップが終わり、お店に平穏な日々が戻ってきました。
おかげさまでワールドカップを通じてたくさんの知り合いも増え、カウンターにもいわゆる常連さんと呼ばれる方が少しずつ出来始めました。
僕の想定ではワールドカップまでは苦しい期間が続くもワールドカップでお店の存在を日本全国のラグビーファンの皆さまに知って頂けたはずだから、その後は集客が少しずつ安定し始めるはず、というものでした。
が…
この後、その見通しが全くを持って甘かったことを痛感させられます。
平日はもちろん、週末も賑わうのはカウンターだけ。
度重なるメニューの見直しや店内の模様替え、日替わりメニューや世界中のビールを集めたビールフェアなども展開し、SNSでも幾度となく告知しましたが、効果はほぼゼロ。
日が経てば経つほどほぼ坊主、いわゆる一日に数人という日が目に見えて増えていくようになり、ふと見れば、銀行口座の残高も底をつく寸前、という状態でした。
加えて、貧さが闘争を生むのは世界の歴史が示す通り。
この頃から容子との不安で不穏な話し合いも格段に増え、文字通り、店内全体が衰耗し始めておりました。
容子は営業中、ことあるごとにお店のガラス窓から外を眺め、通り過ぎる人を見ては
「あぁ、やっぱり、うちじゃないのかぁ… なんでこんなにたくさん人が歩いてるのにうちには来ないんだろう..」
という心の叫びが口癖に。
お客様は来ない、でも深夜までお店を開けていることで終わった後、自宅で料理をする元気もなく、夜はほぼコンビニ。
しかもそのコンビニで弁当買うのにお互いの所持金を確認し合う始末。
そしてある日、容子がぼそっと呟いたのです。
「そろそろ潮時かもね。やっぱりラグビー専門のバーは無理があったんだよ。」
そのあまりに意を得た言葉に
限界ギリギリで我慢していた僕の糸がプツリと切れかけました。
自分でも分かりかけていたことを現実として言葉にされ、
一瞬。
「うん...」と頷いてしまいそうになりました。
だけど、だけど…
「終わらせるのは簡単。前のマスターとの約束もある。だから絶対にお店を終わらせたくない。
ギリギリ、だけど、もっと本当にギリギリまで抗って抗って抗い抜いてお店の存続に執着したい。
だけど、このままだとお店を続けることは間違いなく出来ない。
一体、どうすればいいのか…」
毎夜布団の中で閉店への恐怖に苛まれ、様々なプレッシャーに推し潰されそうに。
そんな時、ふと思いついたのが恩人村上さんのお言葉。
「何かあったらいつでも相談して下さいね!」
藁をも縋る思いで村上さんへ連絡。
すると村上さんがこんな提案をしてくれたのでありました。
(明日へ続きます)
★from 容子
「本当に暇で暇で毎日窓から外を眺めてたのを思い出します。
人通りはあるのにうちのビルの前を通過する人たち。
それを見て“だよねー”って呟く。
その頃はまだ西新宿に住んでいて二人で40分の自転車通勤でした。
夜遅く一人で帰るのが怖くてお客様がいなくても1時過ぎまでお店にいて二人で自転車で帰る。
身も心もヘトヘト…加えてお金もない。すさみました。笑
めちゃくちゃ険悪ではないけど顔見合わせてはため息みたいな日々だったな。」