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No Side History
第2話:聞きたいことは一つだけ
僕「マスター、昨夜お邪魔したラグビーの者です!昨日はラグビーを見せて頂き、有り難うございました!」
マスター「あー、昨夜のイカツイ人ね(イカツイって笑)。覚えてるよ。どうしたの?」
僕「ホームページを見ました。お店を引き継ぎについて詳しくお話を伺いたいのですが...」
マスタ「ホームページ見たんだね。了解。じゃあ、来週のこの日時にお店に来て」
僕「かしこまりました。」
こうやって迎えた面談日。
大きくも小さくもないお店のサイズ、まるで野球のスタジアムのようなみんなで一つのテレビを見て応援出来る店内のレイアウト、そして駅からの適度な距離感。
全てがイメージ以上だった#23をどうしても引き継ぎたい。
その一心を胸に緊張する面持ちでお店に入ったら、真ん中の大きなテーブルでマスターがドンと鎮座。
マスター:「そこに座って」
僕:「はい。これがお店開業の簡単なイメージと経営計画を書いた書類なのですが」
マスター:「そんなのいらない。聞きたいことは一つだけ」
僕:「なんでしょうか?」
マスター:「竹内君はもしお店をやるとなったら、放映するのはラグビーだけ? それともラグビーを中心に据えつつ、今のうちのお店みたいに複数のテレビでその時その時の旬のスポーツを流すの?」
いきなり、このような質問を受けるとは考えてもなかったので一瞬で額を汗だくにしながら、下記のような考えが頭を巡りました。
「恐らく正解は今と同じく複数のスポーツを流す方だろう。だけど僕はラグビー専門のスポーツバーをやりたい。
ラグビーバーじゃなきゃ自分がやる意味がない。ただ...正解と自分の本懐。どっちにすべきか...」
時間にしてほんの数秒。
人生の今後を左右する究極の刹那。
そして決めた。
いや自然と溢れ出た答えがこれ。
僕:「マスターには大変申し訳ないですが、もし僕がお店を引き継がせて頂くとしたら今のお店の形態とは違い、ラグビー専門のスポーツバーにするつもりです。」
「…………。」
「…………。」
僕:(夢敗れたかぁ...やっぱりこだわりすぎたのかなぁ…)
マスター:「君に決めた!!!!!!!」
今考えるとマスターは数秒後にはそう言ってくれたと思います。
が、その時の自分にとっては数分にも匹敵するぐらい、とにかく長く感じました。
「今まであなたのような人を待ってたんだよ!
これまで3、4人の人がこのお店を引き継ぎたいって言って来てくれた。
だけど、みんなお店をやるとしたら形態もこの#23と同じ形を継続しますって。
この限られたスペースで複数のスポーツを複数のテレビで放映したら必ず問題が起きる。
俺は野球が見たいからあっちの見やすい席に変わって欲しいとか他のスポーツの音がうるさいとか...
オープンからその問題にずっと苛まれて来たんだ。
このお店は自分が一から作ったお店だから、継承者にも絶対に成功して欲しい。
だから引き継ぐとしたら一つのスポーツに特化する人にって決めていた。
ラグビーはサッカーやバスケと比べるとマイナーだし、色々と大変だと思うけど、虫眼鏡のように一心を貫き続ければいつかきっと光明が見えてくると思う!
君に全てを託そう!」
27歳で独立して以来、様々な修羅場を潜ってきたはず、だったにもかかわらず、首筋まで溢れ出ていたトレーニングでは決して出ない大人の汗がまるで波のようにスゥーっと引いていくのを感じたと同時に初めて見たマスターの優しい笑顔に身体中の力が抜けほっと安堵。
加えて、いよいよ始まるこれからの人生の間違いなく厳しいであろう出航へ向け、決意を新たにした初春のとある日のことでした。
この後、日本を揺るがす未曾有の天災が襲ってくることは露も知らずに…
(明日へ続きます)
★from 容子
「そんな時、容子は有楽町マリオンで仕事に勤しんでおりました。」